メンバー

吉田 圭介 (Keisuke Yoshida, Ph.D.)

<研究内容>

1. 環境ストレスによるエピゲノム記憶/遺伝の分子メカニズムの解析

我々の体を構成する細胞は、同一のDNA配列を有しているにもかかわらず、様々な種類の細胞・組織が形成されます。こうした細胞ごとの特徴的な遺伝子発現の制御には、DNA配列に依らない要素、つまり、DNAやヒストンのメチル化・アセチル化などのエピゲノム(後天的なゲノム情報)が関係しています。DNA配列変化と異なり、エピゲノムの化学修飾状態は体内外の環境変化に応じて迅速に変化し、各遺伝子の活性を制御しています。また、環境ストレスによって生じたエピゲノム変化の一部は、元に戻らず一定の期間、維持されることが分かってきました(PMID: 26322480)。こうしたエピゲノム状態の変化や維持がどのように制御され、疾患発症と関係しているのか、解析しています。

最近の研究から、親の受けたストレスが遺伝し、子供の疾患発症に関係することが疫学調査や動物モデルの解析から明らかになってきました。例えば、父親マウスを低タンパク食で飼育すると、子供マウスの脂質代謝が変化することが示されています(PMID: 21183072)。こうしたDNA配列変化に依らない遺伝現象は、母親の胎内環境や父親の精子状態がストレスによって変化し、それらが子供に影響するのではないか、と考えられています。我々は、低タンパク食で飼育したマウスから回収した精子のエピゲノム状態を詳細に解析した結果、ヒストンの一部のメチル化が変化すること、この変化が子供の遺伝子発現に関係していることを発見しました(PMID: 32197065)。栄養/免疫/精神的ストレスが精子細胞のエピゲノム状態に対して、どのように影響し、子供の疾患発症に影響するのか、解析を進めています。

 

父親の食事が子供の代謝に影響するメカニズムを解明 (理研プレスリリース)

https://www.riken.jp/press/2020/20200320_1/

 

父親の宇宙空間の滞在経験が子の遺伝子発現に影響する (理研プレスリリース)

https://www.riken.jp/press/2021/20210706_3/index.html

 

2. ゲノム変異に起因する疾患発症機序の解析

細胞を構成するタンパク質は、核内のDNAにコードされている遺伝子情報を元に合成されます。DNA配列に変異が生じると、正しい状態のタンパク質が合成できなくなってしまい、先天性の疾患やガンの原因になります。最新のCRISPR/Cas9技術によるゲノム編集技術を利用して、疾患ゲノムバリアントをマウスや培養細胞に導入することで、各病態を再現したモデル系を構築し、疾患の発症機序や治療法の研究を進めています。

 

3. 多因子疾患の発症機序の解析

「氏か育ちか」という言葉に代表されるように、各個人の個性は”生まれながらに有している遺伝情報(遺伝要因)”と”生まれ育った環境(環境要因)”の両者によって決まります。また、疾患の発症についても、これらの要因が深く関係していることが知られています。遺伝要因と環境要因の複合的な影響によって発症する疾患は「多因子疾患」と呼ばれており、ガンや生活習慣病もこれに含まれます。我々は、上記のようなゲノム・エピゲノムの解析手法を組み合わせることで、多因子疾患の分子的発症機序の解明に取り組んでいます。

 

<発表論文>

  1. Yoshida, K., Fujita, S. I., Isotani, A., Kudo, T., Takahashi, S., Ikawa, M., Shiba, D., Shirakawa, M., Muratani, M., & Ishii, S. (2021). Intergenerational effect of short-term spaceflight in mice. iScience, 24(7).
  2. Yoshida, K., Maekawa, T., Ly, N. H., Fujita, S. I., Muratani, M., Ando, M., Katou, Y., Araki, H., Miura, F., Shirahige, K., Okada, M., Ito, T., Chatton, B., & Ishii, S. (2020). ATF7-Dependent Epigenetic Changes Are Required for the Intergenerational Effect of a Paternal Low-Protein Diet. Molecular cell, 78(3), 445–458.e6.
  3. Yoshida, K., Muratani, M., Araki, H., Miura, F., Suzuki, T., Dohmae, N., Katou, Y., Shirahige, K., Ito, T., & Ishii, S. (2018). Mapping of histone-binding sites in histone replacement-completed spermatozoa. Nature communications, 9(1), 3885.
  4. Yoshida, K., Maekawa, T., Zhu, Y., Renard-Guillet, C., Chatton, B., Inoue, K., Uchiyama, T., Ishibashi, K., Yamada, T., Ohno, N., Shirahige, K., Okada-Hatakeyama, M., & Ishii, S. (2015). The transcription factor ATF7 mediates lipopolysaccharide-induced epigenetic changes in macrophages involved in innate immunological memory. Nature immunology, 16(10), 1034–1043.
  5. Wendt, K. S.*, Yoshida, K.*, Itoh, T.*, Bando, M., Koch, B., Schirghuber, E., Tsutsumi, S., Nagae, G., Ishihara, K., Mishiro, T., Yahata, K., Imamoto, F., Aburatani, H., Nakao, M., Imamoto, N., Maeshima, K., Shirahige, K., & Peters, J. M. (2008). Cohesin mediates transcriptional insulation by CCCTC-binding factor. Nature, 451(7180), 796–801. [co-1st]

 

<総説>

  • 吉田圭介 著「父親の環境ストレスの遺伝」 実験医学 2021年4月号 -世代を超えるエピゲノム-
  • 吉田圭介, 石井俊輔 著「自然免疫記憶とエピゲノム変化」 臨床免疫・アレルギー科 第76巻第1号 -解説-
  • 吉田 圭介, 成 耆鉉, 石井 俊輔 著「エピゲノム変化の世代を超えた遺伝」医学の歩み 272巻1号 -エピジェネティクスと疾患-

 

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内藤 寛 (Yutaka Naito PhD)

<研究内容>

【がん微小環境の不均一性を制御する細胞間相互作用のメカニズム解明】

がんの組織の中には、がん細胞だけではなく、炎症細胞や線維芽細胞、血管内皮細胞といった様々な種類の細胞が存在しています。こうしたがん組織内の細胞は、増殖因子などの液性因子や、物理的な接触を介して互いに相互作用することで、正常な組織とは異なる特殊な“がん微小環境”を生み出し、がん細胞の増殖や転移、治療抵抗性などに大きな影響を与えていることが分かってきました。

 

“がん微小環境”中の細胞群が、どのようなシグナルを介して、互いに影響を与え合っているのか?そして、がんの進展に関わっているのか?その細胞の“メッセージ”の伝達手段、内容を詳しく解析することで、新しいがんの治療標的・診断方法を同定することを目標に、様々な研究を展開しています。

 

I: がん進展における癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts, CAFs)の機能とその不均一性制御のメカニズム解明

私たちは、がん微小環境中の線維芽細胞、通称CAFと呼ばれる細胞集団に着目して研究を行っています。線維芽細胞は本来、創傷治癒や代謝など、生体内のホメオスタシスの維持に関わる重要な細胞です。一方で、がん細胞の浸潤や転移、治療抵抗性にも大きく関わっています(Sahai E et al., Nat Rev Cancer, 2020)。これまでの研究成果から、がん細胞からの特定のシグナルによって、性質の異なる不均一なCAFのサブタイプが生み出されていることが分かってきました(関連業績1、2)。このうち、特定の性質を有するCAFのサブタイプは、癌患者の予後不良と強く相関することも分かっています(関連業績2)。現在、シグナル伝達阻害剤の処理により、特定のCAFのサブタイプの発生を抑えられるかどうか、がんの新規治療標的としての有効性について、検討を続けています。

 

II: 細胞外小胞顆粒(Extracellular Vesicles, EVs)を介した細胞間クロストークの全容の理解と疾患診断マーカーへの応用

近年、エクソソームをはじめとする細胞外小胞顆粒(EVs)の実臨床での応用に期待が高まっています。その理由として、わずか数十〜数百nmほどの小さな小胞の中に、疾患細胞由来のmRNAやタンパク質などの情報伝達物質が豊富に含まれていること、生体内の体液(血液、尿、唾液など)の中に安定して存在していることが挙げられます。このEV内部に含まれている分子を詳細に解析することで、がんをはじめとする疾患の病態解明や、新規治療・診断ターゲットの探索を行っています。特に、EVの内に含まれるどのような“メッセージ”が、がん細胞と微小環境中の細胞との相互作用に重要なのかに興味を持ちながら、研究を進めています。

 

【関連業績】

1: Kogure A*, Naito Y*, Yamamoto Y, Yashiro M, Kiyono T, Yanagihara K, Hirakawa K, Ochiya T. Cancer cells with high-metastatic potential promote a glycolytic shift in activated fibroblasts. PLoS ONE. 15: e0234613, 2020. * Contributed equally to this work.

2: Naito Y, Yamamoto Y, Sakamoto N, Shimomura I, Kogure A, Kumazaki M, Yokoi A, Yashiro M, Kiyono T, Yanagihara K, Takahashi RU, Hirakawa K, Yasui W, Ochiya T. Cancer extracellular vesicles contribute to stromal heterogeneity by inducing chemokines in cancer-associated fibroblasts. Oncogene 38: 5566-5579, 2019.

3: Naito Y, Yoshioka Y, Yamamoto Y, Ochiya T. How cancer cells dictate their microenvironment: present roles of extracellular vesicles. Cell Mol Life Sci. 74: 697-713, 2017.

4: Naito Y, Sakamoto N, Oue N, Yashiro M, Sentani K, Yanagihara K, Hirakawa K, Yasui W. MicroRNA-143 regulates collagen type III expression in stromal fibroblasts of scirrhous type gastric cancer. Cancer Sci. 105: 228-35, 2014.

 

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本田 一文 (Kazufumi Honda DDS, PhD)

大学院教授